日誌

うわさを信じちゃいけないよ♪

 皆さんは、日本史や世界史、そして政治経済などで「金融恐慌」や「世界恐慌」を学んだと思います。「金融恐慌」とは、天災・内乱、景気の悪化などで、企業を結ぶ貸借の決済が不可能となり、信用関係が急激に崩壊して、預金の取り付け、銀行の支払停止および連鎖倒産などで、金融界全般に混乱が起こることです。日本では関東大震災からの「震災恐慌」、その後の「金融恐慌」が有名です。

 信用経済と言われる経済活動の中で、多くの企業と金融機関が関係してお金とモノ・サービスが世界中で取引されています。ただ、お金そのものには価値はありませんので、モノ・サービスの供給量によっては、お金の価値が暴落するということが起こります。先日、3月10日にアメリカのシリコンバレーバンクで預金者の取り付け騒ぎが起こり、経営破綻に追い込まれました。日本では1927年に大蔵大臣の失言から銀行で取り付け騒ぎが起こり、昭和金融恐慌に発展しました。銀行が倒産するかもしれないと思えば、預金者が自分の預金を確保するために引き出しに走るのは、当然です。アメリカでは預金が3000万円までなら法的に保護されるのですが、シリコンバレー銀行の9割の預金は3000万円以上だったため、預金者を守ることで危機を回避しようと「預金全額を保護する」という異例の措置で収拾を図りました。金融機関が本当の危機にあるのか、それとも流言(デマ)による危機の誇張かに関わらず、預金が大量に引き出されて倒産に追い込まれるという事態が起こると、それは一銀行だけでなく連鎖して他の銀行や企業に及び、一国の経済だけでなく世界経済に影響を与えることもありえます。2008年のリーマン・ショックは世界経済に大きな影響を与えました。今回のシリコンバレーバンクの破綻は、主な取引先がIT業界であることから、事態は大部分がオンラインで展開されたことによるものです。大量の預金がオンラインで引き出され、その発端は非公開のチャットグループだったと伝えられており、SNSでパニックに火が付いて、預金引き出しが加速化しました。この事態を後に米下院金融サービス委員会のパトリック・マクヘンリー委員長は、「ツイッターにあおられた初の銀行破綻」と表現しました。世界恐慌の時のような大勢の預金者が銀行に詰めかけた取り付け騒ぎはなく(少しはありましたが)、昔とは様変わりしたようです。

 金融機関で、噂の恐さを物語る事件が昔ありました。1973年、登校中の列車内で高校生BとCが、豊川信用金庫に就職が決まった友人の女子高校生Aに対し「信用金庫は危ないよ」とからかいました。この発言は信用金庫の経営状況を指摘したものではなく、「信用金庫(などの金融機関)には強盗が入るため危険」という意味の冗談でしたが、Aはそれを真に受け、その夜、親戚に「信用金庫は危ないのか?」と尋ねました。Aは具体的な信用金庫の名称は言わなかったものの、親戚の人は豊川信金のことだと自分で判断して同信金本店の近くに住む親戚に「豊川信金は危ないのか?」と電話で問い合わせました。そこからは、噂に尾ひれがついて広まり、預金を下ろす人が殺到して取り付け騒ぎとなり、日本銀行と警察が動いて沈静化を図るという事態にまで発展しました。日本では、この事件より前の1971年に成立した預金保険法で、預金保険機構の裏付けのもと、預金保険制度に加盟している金融機関が破綻した場合、当時は100万円まで「預金者への保険金の直接支払い」が保証されていましたが、一般の認知度が十分ではなかったことも騒ぎが大きくなった原因です。現在は、1000万円まで補償されています。

 「火のないところに煙は立たない」とは言いますが、現在はSNSであっという間に様々なことが拡散される時代ですので、悪意のある噂が流されれば、それを消すのは容易ではありません。デジタルタトゥー(刺青)の名のとおり、ずっとデジタル空間に残り漂い続けます。飲食店が悪意のある口コミによって苦境に陥ることもあります。言葉にせよ、写真や動画にせよ、デジタル全盛の時代では、すべてのことを一度疑ってかかることが必要なのかもしれません。悲しいことですが、だまされないために。