日誌

声の価値と信頼性

 ボーカロイドの「初音ミク」が誕生したのは2007年で、その後ボカロブームが起きましたが、昔SF小説で書かれていたとおりのことが現在、進行しています。先日、生成AIを使い、声優らの偽音声を作り出して無断利用した動画がSNSに投稿される事態が相次いでいるというニュースがありました(読売新聞)。AIに作成させた声で勝手に曲を歌わせたり、文章を朗読させたりするなどの行為により声優や歌手等の権利が侵害され、悪用されることを防止するためのAIの利用規制が叫ばれています。昔、ボイスチェンジャーというおもちゃがあって、マイクでしゃべると低音から高音に声を段階的に変換してくれるというものでした。テレビのニュースで一般人の音声を変えているものがありましたが、あんな感じです。自然な声ではありません。今では、自分の音声を他人のものに即時で変換できる「AIボイスチェンジャー」という技術も登場しています。海外のある企業は、「なりたい声になれる」とうたい、自分の声を、任天堂の人気キャラクターであるマリオやハリウッド俳優らの音声に変換できるとしたサービスをウェブ上で提供しているそうです。この企業は取材に対し、「犯罪や営利目的では使わないよう求めている」と回答していますが、当事者らの許可を取っているかについては、不明です。AIによって音声が手軽に生成できるようになったことで、悪用も懸念されています。海外では今年、英国の女優の偽音声でヒトラーの著書「わが闘争」を朗読する音声がネット上で流れ、波紋が広がりました。

 著作権法30条の4は、著作権者の許諾なくAIに著作物を学習させることを認めており、セリフを含めアニメや映画のシーンを学習することも違法ではないそうですが、著作権法に詳しい弁護士は、「著作権法の成り立ちからして、日本ではAI開発側が優遇されており、悪用されるリスクへの備えが不十分だ。例えば、AIで作られた音声が裁判で提出されれば、証拠の真正を常に疑う必要が生じ混乱するだろう。犯罪などへの悪用の可能性も念頭に、AIによる学習やAIの生成物の利用について、国は一定の規制やルール作りを急ぐべきだ」と警鐘を鳴らしています。

 知人や家族らにそっくりの電話音声で金銭を求められる事件も起こっており、そのうちの 77 %は「実際に被害に遭った」と回答しています。SNSに投稿した動画などの音声が無断で学習され、詐欺に悪用されている可能性があるそうです。日本では、回答者の3%が「遭遇した」とし、5%は「知人が遭遇した」と回答しました。

 私が昔に読んだ星新一のSFショートショートの中に、ものぐさな男が家で寝そべりながらできる仕事は何か考えて、孤独な老人の電話相手となり、そこで得た情報を生かそうと声帯模写を習い、その特技を生かして本人になりすまして様々な人に電話をかけ、色々な情報を引き出し、最後には世界を動かしてしまうという内容のものがありました。今回のAIの偽音声は、声帯模写の才能がなくても作れてしまうもので、もし規制されなければ、その影響力は計り知れないかもしれません。本人の声だと思っても疑ってかからないといけないわけですから。写真も動画も音声も信用できなくなる時代がきたら、皆さんはどうしますか。もう、そこに入ってしまっている気がしますが。