日誌
榎本校長のつぶやき
走れ!手品師
「道徳」って、皆さんはどんなイメージをもっていますか?小中学校では、どんな教材で教わりましたか?先日見たYouTubeで、道徳の授業についての相談に答えるものがありました。それは「手品師」という教材についてでした。内容を簡単に紹介します。
あるところに腕は良いがその日のパンも買うのもやっとというありさまの貧しい手品師がいた。彼は大ステージを夢見て日々腕を磨いていた。ある日、町を歩いていると小さなしょんぼりとした男の子に出会った。声をかけるとその少年は父親が死んだ後、母親が働きにでてずっと帰ってこないので寂しがっているとのこと。そこで手品師は手品を見せて喜ばせたところ、大喜びしたその少年から「明日も来てくれるか」と問われ「必ず来る」と約束して別れた。その夜、手品師のところに仲のよい友人から電話がかかってきた。その内容は、明日の大劇場で手品が催されるが、予定した手品師が急病のため代行者を探しているというものであり、友人はこの手品師を推薦したという。彼は考える。手品師として世間に認められる千載一遇のチャンスではあるが、そのためには今夜出発しなければならない。だが、明日は少年と交わした約束がある。しばしの葛藤の末、手品師は友人にこう答える。「せっかくだが先約があるので明日は行けない。」そして手品師は次の日、大劇場ではなく一人の観客のまえで手品を演じるのであった。
皆さん、授業でやった記憶がありますか?私は覚えていました。この話の道徳的価値とは何だか、わかりますよね。そう「約束」です。約束を守らない人は信用されません。社会人になれば、なおさらですが、子どもや学生なら許されるというわけではありません。有名な「走れメロス」も約束がテーマですね。高校生の皆さんなら小学生に、この「手品師」の教材を使って、どんな授業をしますか?先生が誘導したい解答ではなく、手品師が少年との約束を守らず、大劇場に行くほうを選んだとしたら、そこにどんな道徳的価値を見いだしますか。実は、この話にはもう一つの約束が隠されているというのです。これは、何か夢を叶えようとするすべての人に共通した約束です。考えてみてください。社会に出ると、学校で勉強するような正解のある問題はありません。人と協働して、最適解を探すのみです。すっきりしない、モヤっとするからこそ、終わりのない勉強が続けられるとも言えます。一方的に教えられたものは忘れてしまうことが多いですが、自分で気付いたことは忘れません。気付くためには、答えをすぐ教えてもらうのではなく悩みながら自分の頭でよく考えることが必要です。この「手品師」の話を道徳について考えられるように、大劇場へ行く話に書き直してもらうとしたら、あなたはどのように書きますか?
医学部出て漫画家
以前に「河童忌」や「桜桃忌」など文豪が亡くなった日について書いたことがありましたが、1989年(平成元年)の今日は、漫画家の手塚治虫が60歳で亡くなった日で、「治虫忌」とも呼ばれ、「漫画の日」となっています。また、1841年(天保12年)の7月17日も、イギリスの絵入り風刺週刊誌『パンチ』が発刊されたとして「漫画の日」とされています。日本史の教科書や図説に載っているので見たことがある人も多いと思います。そして、なんともう1日「まんがの日」があります。国民の祝日「文化の日」と手塚治虫の誕生日に由来して11月3日は「まんがの日」です。手塚治虫は、存命中から「漫画の神様」と称され、代表作に『鉄腕アトム』『ジャングル大帝』『リボンの騎士』『火の鳥』『ブッダ』『ブラック・ジャック』『三つ目がとおる』『アドルフに告ぐ』などがあります。皆さんは、読んだことがあるでしょうか。『ブッダ』『ブラック・ジャック』『アドルフに告ぐ』などは、学校や公立の図書館に置いてあるところも多いと思います。
昭和46年(1971年)から少年ジャンプで少年向けストーリー漫画の新人募集企画として「手塚賞」が開催されています。多くの漫画家を排出していますが、知名度が高いのは、『ONE PIECE』の尾田栄一郎氏、『SLAM DUNK』の井上雄彦氏でしょうか。漫画家を目指している人は、たくさんいるでしょうし、ウェブコミックの隆盛で漫画家の数も昔とは比較にならないほど増えています。しかし、その中で漫画家として生活していける人は、ほんの一握りです。ミュージシャンと同じく厳しい世界です。ストーリーを考え、キャラクターを設定し、絵コンテを描き、下書きをし、ペン入れをし、トーンを貼り、背景を描き、ホワイトを入れて完成まで、小説家と画家、映画監督を一人でこなすようなものです。今はデジタルで作成している人が多いでしょうから、昔よりは修正が楽になっていると思いますが。ですから、『君の名は。』で全国的に有名になった新海誠さんはすごいです。なにしろ、彼が2002年に発表した、約25分のフルデジタルアニメーションの短編『ほしのこえ』は約8ヵ月間部屋にこもりながら、 監督・脚本・演出・作画・美術・3DCG・撮影・編集・声の出演とほとんどの作業を1人でこなし、自宅のパソコンを使って作り上げたものだからです。売れている漫画家は例外なく読書家であり、映画を多く見ているそうですが、つまり面白い話と構成・構図を考えるためには、勉強し続けること、新しい情報を仕入れ、色々な体験をすること、感性を磨くことが必要不可欠だということです。一発屋はミュージシャンだけでなく漫画家にも多いです。それくらい、面白い漫画を作り続けることは非常に困難だということです。スポーツ選手や絵や音楽などの表現者になるには、才能と努力が必要です。好きなことを職業にできることは、非常に幸せなことですが、苦しむことも多々あります。それでも一度きりの人生ですから、覚悟を決めてチャレンジするのもありですね。「医者は生活の安定を約束していた。しかし、僕は画が描きたかったのだ。」という言葉を手塚治虫は残しています。「やらないで後悔するより、やって後悔したほうがよい」という意味の言葉を世界の優れた先人たちが残してくれています。あなたは、どうしますか?
〇〇バイアスの打破!
日本教育新聞の「管理職の独り言」という連載コラムに、「学校バイアスを見直す」というテーマの文がありました。バイアスとは、簡単に言うと「思い込み」です。バイアスと言えば東日本大震災などの災害時にテレビなどで解説される「そんな災害は起こらないであろう」と考えて判断を誤る正常性バイアスと、「他の人も逃げていないから、まだ大丈夫」と考えて逃げ遅れる同調性バイアスが有名ですね。タイトルの「学校バイアス」には、「生徒は学校行事が好き(特に体育的)」や「校則を緩めると学校が荒れる」などがあるそうです(筆者の考えでは)。スポーツが苦手な筆者は、句会や茶会や読書会とかやってくれないかな…と思えど叶わなかったそうです。体育的行事にしろ、音楽的行事にしろ、旅行的行事にしろ、苦手な生徒が一定数いることは否定できません。筆者は中学校長ですが、生徒に「みんなが楽しめる」というコンセプトを伝え、企画を考えさせると、「学校の大人のバイアス」を壊すアイデアが次々出てきたそうです。
皆さんなら、どんな学校行事もしくはクラス行事を考えますか。もちろん、どんな教育的意義や効果があるかを説明できなければいけませんよ。学校生活は、主に授業・学校行事・委員会活動・HR活動・部活動で成り立っていますが、楽しく意義あるものにするには、〇〇バイアスを疑って、自分の頭で考え、みんなで対話することが大事です。近年、話題になっている「女性は理数系が苦手」もバイアスですね。
未来の、そして現在の太東生へ
本日、高校入試の前期選抜の入学願書の受付が終了しました。明日の朝刊で各校の志願状況が判明します。自分が受ける高校の志願倍率が気になっている受検生もたくさんいると思います。本校を志願してくれている受検生の皆さん、今まで培った力を十二分に発揮できるように、万全の体調で来週の本番に臨んでください。後期選抜はないものと考え、背水の陣で自分の力を目いっぱい引きずりだそうという心構えで取り組んでください。それが、今後に生きてきます。検査室に入るまで、自分は伸びると信じて、あと5日間を頑張って過ごしてください。受検当日、問題用紙を開くときに、「多くの仲間に支えられ、ずっと励まし合ってやってきた」そして、「自分は一人じゃないんだ」と思えることで、より力が発揮できると思います。皆さんが、試験終了後に「力を出し切った」と晴れ晴れとした顔で帰路につけるように願っています。3年次生の皆さんも、受験真っ只中で頑張っていると思います。未来の、そして現在の太東生、「ガンバレ!」
福、呼び込みたいですか?
今日は節分ですね。節分といえば普通は2月3日のことを指しますが、もともとは季節の始まりである立春(2月4日頃)・立夏(5月5日頃)・立秋(8月7日頃)・立冬(11月7日頃)の前日を指す言葉です。節分は、季節を分けるという意味でもあるんですね。節分は、旧暦の立春が新年であったため、その前の日に邪気を払う目的で始まったのだそうです。 年の変わり目に邪気を払い、1年の無病息災を願って豆まきをしたり、恵方巻やイワシを食べたりするのが風習として今も残っているのです。
私が子どものころは、節分には雪が降ることが多かった記憶がありますが、温暖化のせいなのか雪自体が最近は降りませんね。今日は「のり巻きの日」(1987制定)「巻きずしの日」(2011制定)でもあるそうですが、節分と「恵方巻」がセットになっているようですね。バレンタインデーやホワイトデー、ハロウィン、「いい夫婦の日」「孫の日」などと同様に、業界の戦略がまんまと当たったようです。恵方巻きは、江戸時代から明治時代にかけての大阪で、商売繁盛を祈ったりしたのが発祥といわれています。節分の日に巻寿司を恵方(その年の縁起のよい方向)に向かって丸かぶりすると幸福が訪れると言われていることから記念日を制定しました。1989年に、某コンビニエンスチェーンが広島県で太巻きを売りだした際に、「恵方巻き」と名前をつけ、販売を始めたというのが、全国に広まるきっかけだったようです。私の実感としては、我が家で恵方巻を食べるようになったのは、ここ10年くらいからだったような気がしますが、正確にはわかりません。ここ数年、帰宅時に恵方巻難民になって買うのに苦労していますが、今年は買うかどうか悩んでいます。
皆さんの家では、豆まきをしているでしょうか。我が家では、毎年4人で豆まきをしています。もう27年目になります。鬼役は私で、鬼のお面をかぶって豆をぶつけられて玄関とリビングから追い出されています。「鬼は外、鬼は外、福は内」と豆(煎った大豆)をまいて、邪気を祓った後に、年齢の数だけ豆を食べて、1年間の幸せを祈る行事ですが、さすがに60個の味付けのない豆を食べるのは、きついですね。 豆には米と同じようにエネルギー源として霊力が宿っていると考えられていたから、食べるようです。
これからどんどんAIが発達して世の中が変化しても、日本の伝統行事にはどんな意味があるかを知ることは、大切なことだと思います。国際化とかグローバル化とか言われるようになって久しいですが、自国のことをよく知っていることが前提なのを忘れないでください。鬼についても書きたかったのですが、字数が増えてしまったので、別の機会にします。